「和歌山県園部地区で何が行われているのか」

住民に群がる大勢の報道陣
「住民の顔を撮れ」

 和歌山県園部地区を訪れたのは事件発生から一週間後の8月3日だった。JR和歌山駅から車で紀ノ川を渡り土手沿いの細い道を抜けると園部地区が広がる。事件が起こった現場は園部14地区内にある空き地。今では祭り当日のテントも取り払われ、言われなければそこが4人の命を奪い去ったヒ素事件の現場だとは思えない。
 この園部14地区は県道から一本小さな道を入った中にある67戸ばかりの地区である。その道は袋小路で、途中一本右に折れ曲がっているのだがその先も袋小路となっている。
 当初から雑誌、ワイドショーが騒ぎ立てたように、この祭りは自治会内の人物にしか知らされていない小さな祭りだった。現場の状況から考え、偶然通りかかった人物が立ち寄るような祭りではないのである。また小さな地区のため顔見知りではない人物が立ち入れば直ぐに出も怪しまれる状況にある。その為、犯人はこの地区内の人物ではないのかとの判断によりマスメディアは動き出していった。
 事件報道に付き物なのがその犯人の顔写真と実名である。神戸の「淳くん事件」では犯人が未成年の為、少年法のもと顔写真と実名の掲載が新聞テレビでは行われなかった。しかしフォーカスが容疑者とされる少年の顔を掲載、インターネットでも雑誌から転用した写真をホームページで掲載するなど顔写真と実名を知ることに多くの人間が夢中となっていた。
 この様に現在の日本では犯罪を犯した人物の顔写真と実名は少年以外では多くの場合マスメディアによって知ることが出来る。警察の発表以外に入手方法は様々だが、今回のような未だ犯人が捕まらず、さらに現場周辺の人物が怪しいとなった場合、マスメディアは自社が撮影した映像、写真にこだわるのである。「本社は逮捕される以前からこの人物を怪しいと思っていた」という証拠を示すために。また犯人が罪の意識に耐えられず自首や出頭した場合、締め切り間際や号外、中継など、時間的に余裕がない場合は自社による容疑者の写真や映像は直ぐに使用できる。さらに逮捕されるまで普通に生活していた容疑者の顔や表情を我々は知ることが出来るのである。しかしここで考えなければならないのは果たして顔写真と実名がマスメディアによって公開されることに何の意味があるのかである。
 多くの人が罪を犯すと顔と名前が公表されそれが抑止力となると考えているのではないだろうか。しかしその裏で行われているのが今回の和歌山園部地区での人権無視である事を忘れてはならない。
 ある新聞社では7月の終わりに現在疑惑の人物とされている夫婦の顔写真を押さえろとの指示が出ている。夜回りと周辺の聞き込みにより浮かび上がった容疑者だが、これは後の取材により多くのマスメディアで同じ様な指示が出されていた事が判明している。また同じくして園部14地区に居住する住民の顔写真撮影も平行して行われていた。確かに怪しい人物だとしてもいざ逮捕されたときにそれが全くの別人だった場合、顔写真を公表出来ない。その為疑惑の夫婦以外にも出来れば住民全員の写真を押さえる事が現場での仕事となっているのである。
 たとえば今回の事件でカレーを作った責任者とされる自宅には、連日何時間も捜査員が出入りしていた。これは怪しいと取材する側が感じればその人間の顔写真を押さえる事になる。買い物の為に自宅を出れば遠くからレンズが狙いシャッターの音が聞こえる。この様な状況に園部地区の住民は苦しめられてきた。
 しかしその状況は8月25日付朝日新聞朝刊のスクープ記事により一変するのである。「事件前にもヒ素中毒」その記事はこの地区の住人宅に出は入りしていた関係者が、毒物カレー事件以前にヒ素中毒に似た症状で入院していた事が判明した記事だった。園部地区の住民に向けられていたレンズの先が今度は一つの家庭へと向かう事になったのである。

掲示板を用意しました。質問、意見のある方は是非書き込んでください。
Email: imcnews@imcnews.com

(C) Copyright 1998, Fumiya Otemachi, The InterMedia Center